2005/05/10

第37号

 平成18年4月1日から、一挙に60歳定年が62歳となり、段階的に65歳
 まで引き上げられることになっている。60歳定年で自動的に人員削減
 できると思っていた個別企業では、人員整理を抱き合わせで行わなけ
 ればならなくなったので、大きな予定変更である。個別企業の事情を
 一切考慮しないこの法律改正に、どのように対応すれば良いのかと不
 安が高まっている。結論から言えば、法律改正を無視すれば全面適用
 となり、合法的な基準を定めれば相当な「ザル法?」になっているの
 だ。そもそもこの法律目的が、厚生年金の破たんを食い止める年金制
 度の不備(在職老齢年金、支給開始年齢)を補うために無理矢理作ら
 れたものだから、個別企業においては納得性が出てこないのである。
 昭和34年以来の国民皆年金をはじめとした社会保障政策の大失敗に対
 する、「焼け石に水」というところだ。したがって政府の姿勢も「無
 理を言いませんから、できるだけ雇用を!」というニュアンスになっ
 ているのだ。これが対策のキーポイントだ。
 したがって、段階的に到達年齢をスケジュールとしているが、到達年
 齢になったからといって、すべての人を雇用しなければならないとい
 うものではない。ただし、それは合法的な基準を定めればの話である。
 その基準は、健康、能力、服務態度についてであるが、恣意的(好き
 嫌い)選択を排除しているものになっておれば、結果的には対象年齢
 者の40%を雇用しなくてもよいとのニュアンスになっている。またそ
 の際に子会社・関連会社への出向とか労働者派遣も可能である。すな
 わち、基準内容において、客観的な合理的で社会通念上相当であれば
 良いとのことである。そろそろ、対象者の職務経歴や人事評価を整備
 して、基準作りを始める時機になってきた。場合によっては整理解雇
 の抱き合わせも要求されてくるので、頭を悩ます必要が出てきた。
 さて、ここまでは机上の話で、現実的に合法とされるにはどうするか
 である。厚生労働省はそこまでの説明を避けているが、こういうこと
 である。この基準というのは、労働協約もしくは就業規則に該当する
 ものであるから、過半数労働組合があれば労働協約締結作業、それ以
 外は意見聴取をして監督者の届出が必要であり、これらが抜け落ちれ
 ば「裁判では負けますよ!」と言っているのである。それは、例えば
 労働組合のない事業所であれば、従業員代表選挙を行った証拠から始
 まって従業員代表との協議の議事録に至るまでを整備しておく必要が
 あることを意味する。いわゆる整理解雇の四要件を念頭に置いておく
 必要がある。うかつに発表してしまって、社員からの冷たい視線にさ
 らされ、何もできなくなったばかりか、取り返しのつかない不信感を
 買ってしまった事例は数多くある。ましてや時代は変化しており、変
 化を起こした団塊の世代に関わる問題なので、労組の同意を採ってい
 ても、トラブルを訴訟に打って出るばかりでなく、紛争調整委員会の
 あっせんに持ち込むケースも増えているので、甘く考えわけにはいか
 ないのである。
 こうなってくると、それなりに厳しい対応を迫らざるを得ない個別企
 業においては、専門家を導入して幅広く検討し、手抜かりのないよう
 に制度を組む必要がある。どこの個別企業においても初めてのことで
 あり、労働意欲にも大きく関わる問題である。この不透明な時代に、
 わけのわからないままに法律が変わったからといって、少なくとも数
 億円の人件費負債を背負う必要は無いのである。

 ここ数年、日本各地での安全管理不行き届きによる大事故が続いてい
 るが、いよいよ世界に名だたる旧国鉄の安全技術が地に落ちているこ
 とがはっきりしてしまった。またまた、輸出に悪影響が出る。新幹線
 のみならず高付加価値製品に対するジャパンイメージは大きくダウン
 した。
 JR西日本宝塚線の事故は、メカ(装置)の不備が指摘されているが、
 それにも増して今回はそれらを防ぐための業務遂行体制にボロが出て
 いることが判明した。ここまでJRの人事労務管理の水準が後退して
 しまっているとは思わなかった。原因究明の研究キーワードは、「マ
 ル生運動」「国鉄分割」「JR不採用事件」といった所で、「民営化」
 は派生項目である。マスコミの解説でもこれらを触れてはいるが内容
 には立ち入っていない。まず教育訓練については、「やってみて、言
 ってみて、やらせてみて、褒めなければ、人は動かない。」とする近
 代教育訓練の基本すら、「日勤教育?」の実態を聞くや行われていな
 かったことが判明した。この近代教育訓練の基本は戦前、海軍の山本
 五十六が大型艦船を動かし、3つの艦隊を各々実戦配備に資するため
 の教育訓練方法として、アメリカのハーバード大学留学の後、日本で
 初めて導入されたものである。戦後は、TWI訓練として、ほとんど
 の産業でこの教育訓練方法の基本が用いられて、日本の高度経済成長
 を支えたのである。それがJR西日本では、忘れ去られて、前近代的
 教育に後退してしまったようなのだ。
 また、ATS装置より若年運転手の人件費が安かったとでも言いたい
 のだろう。「ひやり・ハット運動」とか「プロジェクトX」はどこへ
 やら。旧国鉄時代の「マル生運動」期間中に、上司に反対すれば「教
 育」送り、一方で職場での賭博と酒の誘惑が氾濫との禁じ手を使って
 しまったものだから、はたして残った社員の士気を高められるのだろ
 うか。JR西日本は当時の政府に翻弄されて、運転士のモラルを低下
 させた人事労務管理が行われていたと言わざるを得ない。売り上げは
 伸びず手を抜く事ばかりの公務員的発想。社長を替えても方針を変え
 ても、部下は顔色を伺うだけで、受け入れる素地もなければボトムア
 ップの要素も根絶やしにしてしまっているのだから、民営化としては
 大失策だった。……他山の石である。
 四菱は社会不適合、こちらは前近代。……お陰で日本経済は世界から
 見捨てられそう????
 事故の激音と砂煙を見て、操業停止をして助けに行ったのは、日本ス
 ピンドルだった。