2007/06/05

第62号

5000万人年金納付記録
ここ数日早速、社会保険庁は年金振り込み通知書に、国会答弁の内容を増刷して、加入記録の問い合わせ先を案内している。
時効対策が実施されたとしても、救済されるのは数割で、半数以上は無理だとする社会保険庁内部からの話も報道されている。そこで、何十年にわたって、多くの事業所の事務取扱をしている当社の経験から、総務部門担当者にとって不可欠の関連インテリジェンス情報を、この際提供する。
厚生年金に限っていえば、年金記録はズサンとしか言いようがないが、その発端は、厚生省官僚の怠慢?から始まっている。昨年6月1日現在、基礎年金番号への未統合件数は約5095万件、そのうち厚生年金と船員保険が77.8%をしめる。その事業所名は、概ね確認できるようだ。全件の年齢別は55歳から59歳が約15%、年齢不詳は0.6%(約30万件)にすぎない。
そもそも、社会保険は強制適用であるから、会社の常用の被用者、すなわち社長からアルバイトまで全員が加入しなければならないものである。強制適用とは社会保険事務所が被保険者資格を決定・確認すれば保険料納付の有無は問わないとの意味である。さらに、強制適用によって厚生年金機関は加入期間が重要(基礎年金には保険料免除でも年金給付)となっており、過去の賃金額は報酬比例部分に反映する仕組みとなっている。昔はサービス業などで強制適用の除外事業所も多数存在したが、現行は除外されるものは少なく、強制適用の実施年月日は法令の改正なので明確である。これが基本方針なのである。
厚生年金保険は、米ソ対立の世界情勢を背景に国民の将来保障と安心の支えとして、営利の民間保険事業ではなく社会保障として、紆余曲折の大論議の末に国会で強制適用とされたのである。ところが、厚生省官僚は厚生省内部で、「保険事業には採算が取れなければならない」といった理屈を陰で言い続けたのである。もちろん、この「採算優先」のことは公にされず、公となる事件が発生すれば、厚生省は個別の採算は無視してでも法律通りの回復措置を行って来たのである。そこで、厚生省行政方針の大半が、「大きなトラブルには対処するが、国民の泣き寝入り大歓迎!」との噂どおりの対応となっているのだ。また、被保険者に保険料納付義務をなくして(強制適用には納付の権利義務は無い)、保険料の追加徴収(徴収期限は時効2年)が発生すれば事業主に労使双方分保険料を負担させているが、この「採算優先」の厚生省官僚の姿勢が、本人から年金給付請求(裁定請求という方式)が行われた場合に限り、年金を払えば良いという間違った解釈をも蔓延させた。
加えて、旧来は厚生年金の年金番号は初めて厚生年金に加入した所在地の社会保険事務所に原簿をそろえる方式(戸籍とよく似たもの)でもって本人請求方式(就職した会社の住所と名称情報で調査可能)に耐え得る記録保存方法を行っていたのであるが、基礎年金番号に切り替える際に、ズサンさを見逃す方式を招いたのである。まさか、社会保険庁が非熟練事務員ではあるまいし、ズサンな事務処理が末端で発生することを予想出来なかったとは言えないのである。社会保険料徴収技法は、国税庁に比べはるかに優秀である。原因は、保険者である政府と被保険者が相互にチェックしあって年金保険を成り立たせるといった社会保障の発想に基づく制度改革ではなく、官僚が押し付ける一方的事務管理であったことにある。そして、今回の社会保険改革をめぐっても、厚生官僚はコンピュータシステムをことさら強調、システム完成時期に合わせて改革スケジュールを進めているのである。事務のズサン発生懸念部分を事前に指摘する、現場の社会保険事務所からの声も無視し続けて来たのである。
要するに、「記載・入力ミスで、年金の払いが少なくなれば、ラッキー!」と言わんばかりの姿勢と言われても仕方がないのだ。その証に、建設業界では健保組合や政管健保ではなく、国民健康保険組合であったことから、厚生年金と連動した扱いとなっていなかったことで、厚生年金にも国民年金にも加入していないのに、保険料だけ給与から天引きされていた事例に対しても弱腰だったこともあった。社会保険適用にかかる調査も、賃金水準の低い事業所は何年でも放置し、賃金の高い事業所は普通に調査をする実態も、このような姿勢の結果であると思わざるを得ない。
社会保険法令の強制適用方針からすれば、話題となっている「領収書に代わるもの」とは何を指すのかを考えてみると、次のようなものが提題される。事業所の雇用記録、健保組合の記録、雇用保険被保険者記録、給与明細、離職票(職安の公文書)、社員証、名刺、同僚の証言(報告書)、技能検定受検資格、児童手当受給書類、厚生年金基金書類、給与振込み銀行通帳、源泉徴収票、社員旅行の写真、官公庁への技術者届などが考えられ、これらを総合的に判断するといったものが考えられる。受付事務に当たっては、本人申告制として、弁護士などの事実把握能力に長けた者が仲介(話題の第三者機関とは異なる制度)に当たることとすれば円滑さを増すであろう。その理由は、過去の社会保険事務所適用課長の証拠隠ぺい事例などからすれば、社会保険事務所が「責任をもって調査出来ます」といった言葉では、受付事務自体でトラブルを増加させる懸念があるからだ。あるいは現在、社会保険審査官・審査会の制度の体制も在るが、事実解明機関とは程遠い制度運用である。この際、年金を払いたくない一心から嫌々受け付ける方策と、法令遵守の立場から個人の年金受給権を受け付ける方策の両面から物事を考えておく必要がある。
何れの道が選択されるのかは別として、日本の個別企業が政府の社会保障制度によりかかって終身雇用制度を進めて来たことからすれば、総務部門担当者は、事業所内の事務を進めるに当たって、これらの手法に至るまでのインフォメーションを頭に叩きこんでおく必要がある。



雇用保険の失業給付支給条件が
今年の10月1日から変更となる。最大の関心事は、自己都合退職で暦日6ヵ月間さえ働いておれば、最低90日分の日額手当が支給されたが、10月1日以降の退職の場合は、過去2年間に暦日で12ヵ月が必要となる。倒産や解雇の場合は暦日6ヵ月間のままである。失業する者の感覚を推測してみると、「就職先をミスったけれども、6ヵ月間さえ我慢さえすれば、3ヵ月待てば90日分の失業保険がある」といった安心感(理屈?)は職場トラブル回避に役立っていた。この6ヵ月が12ヵ月となると、「就職先をミスった!」場合などは、瞬時に退職といったことになり、会社側としても、意欲のない労働者の整理につながるとして、退職が試用期間の14日以内であれば法的な根拠も存在し、トラブル防止の具体的な効果も考えられる。
ところが、労働者が、「6ヵ月の我慢期間が、1年となる!」との感覚を持った場合が問題なのだ。ただ単に仕事がいやだ!といった程度でも、「6ヵ月の我慢」はトラブルの心理的ブレーキの理屈となっていたのだ。それが1年間の我慢ともなれば、セクハラ、いじめ嫌がらせ、上司とのソリが合わないなどの場合には、解雇されない限り失業給付がもらえないと考え、それだったら「紛争を起こして、保障をもらおう」となるのが、失業する者の当然の感覚である。まして、セクハラ、いじめ嫌がらせ、労働基準法違反などが存在すれば、それは、労働者の権利として認められるので、労働基準監督署などが味方になってくれると、労働者は考えるのだ。
こういった傾向は非正規労働者の間で、よく見られるものである。今回の法律改正の政府の思惑は、失業給付の正規労働者と非正規労働者の差異をなくそうとするものと考えられる。個別企業としては、職場での紛争の火種を、理由のない紛争と労働者に権利がある紛争とに適正に処理することができる社内システム(手始めに就業規則の具体的解雇条項を羅列するなど=当社サイトのダウンロードを参照)などを整備しておかない限り、紛争ぼっ発時には、ひとえに会社側が弁済を強いられることとなる。“だらだら仕事で時間にルーズ”であった労働者が、一転、労働基準法違反の時間外賃金請求にくら替えする事件は珍しくもなく、訴訟となれば会社は負ける。こういったことがグローバル基準であるから、会社経営の上での認識が必要となっている。特に、労働集約型事業では、紛争や事件が、累積赤字の根源となっていることには注意しなければならない。



経営分析の新たな視点
固定負債に対応する自己資本比率は、国税庁の発表によると、中小企業の固定資産に対する自己資本は20~30%で、残りは銀行からの長期借入金が中心とのこと。2005年になって商工中金理事長は、「(商工中金は)出資相当分を出していることを考える時代」と表明するようになった。勘定科目の仕分けの形式にとらわれることなく、経営分析をすると、銀行の貸付金は企業の資本金と判断した方が合理的なのである。利息を払っているから借入金と見るのは形式にこだわる本末転倒な解釈で、本来は増資であるにもかかわらず配当ではなく利息を払う約束をしてしまったと判断した方が、物事の本質的な見方なのである。したがって、実態として「銀行は大株主様」として応対しているのは、とても道理にかなっていることなのである。
これを、図表で考えてみれば、もっと分かりやすい。貸借対照表(バランスシート)というのは、一枚の紙を四分割して作っている。左上には流動資産、左下には固定資産。右上には流動負債、右下は資本となっている。左側が資産、右側が負債。上半分が流動、下半分が固定。そして、固定負債に対して資本金が相対するようになるのが本来の姿である。ところが、日本では資本の部が少ない企業の多いのが特徴。(固定負債に対する資本の充足率を自己資本比率と名付けている)。固定負債相当を資本の部で充足されていない資金のカバーをしているものの内、多くが銀行からの借入金となっているのだ。(あまり社債などには頼っていない)。今話題の「会計基準」は、こういった考え方を徹底していることに注目しておく必要がある。
その昔、高度経済成長政策の初期は、日本の産業を都市部に集中、集団就職も華やかであった。しばらくすると、今度は大手企業が地方に進出する工場誘致政策を実施したのである。大手企業の工場が地方に建設されれば、同時に中小企業の事業所も合わせて必要になることから、例えば、「高度化資金」と称して商工中金が3分の2、地元銀行が3分の1といった具合に貸付を行ったのであった。地方の中小企業は、工場受け入れに合わせて、商店街を作り、賃貸アパートを建てていったのであるが、これらの資金も地方銀行が貸し付けたのであった。そこには、銀行が貸付先の経営方針を見極めたうえでの融資とは異なり、政府の政策融資が引き金の「護送船団貸付」であったから、土地や建物・追加担保あるいは地元の連帯保証人(個人保証)を押さえておく必要があったのだ。
ところで、金融面でのアメリカの動機は、郵便貯金の如くすさまじいものがある。アメリカの銀行は、いわゆる「投資銀行」で、日本の銀行とは業態が異なる。したがって、不良債権を処理させた後にアメリカの金融業界が日本に進出するためには、日本政府に音頭をとらせ、事実上元金を返済させない貸付業態(長期にわたって利息を稼ぐ)の元凶となっている、「日本的担保物件」は売却させてしまって、その後、アメリカの金融業界は、元金回収業態の貸付方式を、日本の金融業界に定着しようと考えているようだ。先ほど述べた連帯保証人(個人保証)の制度は、アメリカなどの金融先進国では80年ほど前に廃止をされた制度で、まさか野蛮人の金融制度が存続しているとは思っていない様だ。これが外圧の中身であって、金融庁が、「担保物件の整理」とだけ限定して、言葉巧みに語るのは、こういった背景が存在するからだ。
そうすると、銀行には社会的責任があるといえども営利企業だ。不良債権を損金勘定(銀行救済策)に回すこと+利益率向上につながるのであれば、不良債権の担保物件を処理して、貸付金一覧帳簿から融資そのものを消してしまうことが、銀行経営にとっては得策となるのだ。ほとんど読者は、この意味が理解出来ないかもしれないが、要は、銀行から追加担保や金利引き上げなどの要請があれば、「状況と対策によっては、銀行が融資帳簿から削除に暗黙の了解をする」ということなのだ。そこで今から、3年から5年の間に、優良中堅企業などからの、メガバンクの貸付資金の回収が始まる。そのことから企業経営は、一方では利益率を5%以上向上させることが必要となり、他方では利益率5%未満しか見込めない個別企業であれば、こういった「日本的担保物件」対策が、ますます重要となるのである。一挙に「日本的担保物件」を処理して無借金経営に転換させる戦略展開で切り抜けることを要する個別企業は数多く、その事例は増加傾向にある。
そこにチャンスとばかり、この機に乗じて甘いささやきを用いて、“経営コンサルタント業の○○総研と称する(その実)不動産紹介業”や、“大手冷凍食品会社の知名度で貸付話を持ちかけて、寸前に株式増資に切り替え会社を乗っ取る七人の集団”まで出没しているから、財務を食い物にする悪徳業者には注意しなければならない。ここでは経済学・経営学の真髄を見極めての対策が必要となるのだ。(なお、株式会社総務部が情報交換する、当該分野の経営コンサルタント業は元金融関係職員が中心で構成するもので、合法的であり、不法行為性の危険のある指導は行わないので、念のため)。