2008/07/08

第75号

個別的労働関係の紛争が急増
5月から6月にかけて、解雇、労働条件切り下げ、就業態度などをめぐっての個別企業と労働者の紛争が急増している。労働組合関係のうわさをきいても、労働協約に関するトラブルではなく、個別的な労働者の相談や団体交渉が増加しつつあるとのことである。
紛争の真っただ中で、会社側のあっせん代理人or団体交渉員の視点から分析をしてみた。
いわゆる格差社会のワーキングプア転落への恐怖感から、労働者は反応している。
1.そのきっかけは、上司の強圧的態度、信義則違反の態度に起因する感情問題である。
2.理不尽・不利益条件変更や解雇問題でも、事件に結びつくことは少なく、金銭で落ち着く。
3.感情問題の深刻さの程度により、労働審判 → 紛争調査委員会 → 労組団交へ進化する。
4.「労基署に行く!」の発言の裏には金銭、労基署に行くのは比較的少ない。
5.精神的損害の金銭要求!の奥底には、上司や会社との感情問題が粘着している。
6.偽装食品表示、偽装請負などのニュースは追い風! 法律条文は口実事由となっている。
7.当事者の納得する和解解決には時間がかかり、労働者ひとりの問題域を超えることになる。
8.和睦、和議、示談、裁判での取引の手段は、中間管理職の企業精神を腐らせている。

最近取り沙汰されている労働者派遣業界においては、厚生労働省が日雇派遣を中心に弾圧を行っていることから、この系統の業者は「貧すれば鈍する」、トラブルを抱え込みやすい。その余波は発注企業にまで及んでおり、これが残念なことに、人事や総務部門には聞こえてこない現実でもある。
派遣業者でも、いくつかの業態パターンに分かれる。
いちばんトラブルを起こしやすいのは、アメリカ系発想の派遣会社である。その昔、ニューヨーク港に到着した移民に対して、架空の職業を1~2ドルで紹介し、汽車や馬車を乗り継ぎ現地に辿り着けば、何百人と騙された人の集まりだけ、といったような人身売買が、業界の始まりだった。これを州政府が賃金を支払わせるよう規制したのが、アメリカ系派遣会社である。したがって、派遣労働者のスキルとか能力にはおかまいなしであるから、トラブルが続出するのは当然のことである。日本的人事管理や日本的労働市場から生まれた純日本系派遣会社、ヨーロッパ系派遣会社などにあっては、格段にトラブルは少ないようだ。



ネットカフェやホームレス問題を取材!
大阪西成には、釜ヶ崎支援機構というNPO法人がある。
事実上、政府や自治体のホームレス支援、ネットカフェ難民問題を現場の最先端で取り組んでいる非営利民間団体である。
西成「三角公園」の隣にある、元職業安定所の労働出張所跡二階で、この団体の本年度総会が6月21日開かれた。
大阪市西成区の、「釜ヶ崎」といえば、
「釜ヶ崎にいけば、物も安いし、何とかなる!」
と、全国のホームレスに陥った人たちに、うわさされている地域だ。
一概にすべて「何とかなる」と言うわけでもないのだが、確かに自動販売機の缶ジュースは50円程度、三角公園周辺のキリスト教団体に行けば、1日1食は無料で食べられる。今時、炊き出しは流行していない。近所にあるスーパー:イズミヤも食料品は驚くほどに安い。

ところが、関西のほとんどの人であってもが、釜ヶ崎の名前は知っているものの、ほとんど、この周辺にすら足を踏み入れたことがない。
昔から、「ネクタイをしていると襲われる!」と言われるが、実際は、金持ち風:鼻高々とかオドオド:ビクビクしている人物が危ないだけである。
とくに雨の日は危険ではあるが、決して無法地帯ではない。アニメの「じゃりン子チエ」の舞台は、釜ヶ崎と南海電車の線路で隔てられた高架をくぐったところの街である。
釜ヶ崎に存在するホームレスなどの支援組織、関係団体、労働組合などは、様々な思惑なども絡み合い奇奇怪怪! ここに、南北朝鮮・日中台湾問題の国際情勢末端での悲劇も絡んで来る。
夜の9時半ともなれば、繁華街とは異なり、ほぼ通行人もいない、静かな状況。ただし、一旦事件が起こると、寝床から起きて来て、野次馬、投石、放火などの騒ぎになるのである。

さて、NPO釜ヶ崎支援機構総会での特徴的な話を取材。
昨年秋から、政府予算でネットカフェ難民と言われる100人に、インタビュー調査を行って、本年度末に結果発表に至ったとのこと。
数値で表せないインテリジェンス情報が、確かによく集められている。
この調査から、ネットカフェ難民主流の解明ができたとしている。
それは、
地方などから工場派遣などに働きに来た人が寮付の派遣に就職したが、高収入とは裏腹の過酷な労働と賃金、短期雇用契約による解雇の繰り返し、離職前の寮付住込派遣仕事から次の寮付住込派遣仕事の間の、「つなぎの瞬間」に、一時的なネットカフェ生活と思って、ネットカフェ、深夜のファミレス、お金がなければ路上生活をしているといった状況とのこと。
体が健康であれば、収入は概ね1ヵ月17~18万円の手取りはあるようだが、段ボールやブルーシートを手に入れる知恵すらなく、その方法も知らないとしている。

こんな話も。
釜ヶ崎とその周辺での支援対象となる人たちは、この1年余りに急激な変化しており、あまりにも社会で生きて行く知識が少なく、「ボクだけの話を聞いてくれ!」に象徴される若者が多く、社会での共同生活が出来ない人が増えていると分析。
人間関係構築能力欠如、→ 社会参加訓練欠如の末、→ 孤独志向に至っていると話していた。
現象としては、「もっと早く、声をかけて欲しかった」との感想を述べる30代の人が増えている様子だそうだ。半面、他人からの「ほどこし」は絶対受けないとする人たちも目立つとしている。
そういったことから、統合失調症などの精神疾患に陥っている人が急増とのことである。
強調されていた事柄は、
最近急速に30~40代の若年者にとっては、「ただ単に仕事、ただ単に援助金、ただ単に食事、ただ単に生活保護」といったような、旧来の標準パターンの流れで支援ケアすることは不可能で、何らかでも「心のケア」とか、「心の支え」に結びつくような支援が必要であるとの話。

釜ヶ崎に集まる人たちの取材と合わせて考えると、人手不足!人材不足!外国人労働力の輸入を!と言うより先に、釜ヶ崎を訪ねて来る、「まだしも日本文化を理解している」若者たちに、デンマークやスウェーデンのような、再教育や再訓練といった労働力確保施策の考え方も、ひとつの方法とヒラメいた。
その理由は、日本製品の背景には、日本文化があり、この文化を外国人が理解するには並大抵ではなく、ここのネットカフェには、「極めて日本文化にこだわっている」人たちが、窮乏しながらも生きているからである。



労働契約法の解説 (第5条:安全配慮義務)
「第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
労働契約法に関する書籍や解説が数多く出されているが、この安全配慮義務を定めた条項の解説は少ないようだ。そもそもの事件は、安全配慮義務の概念が存在しなかった当時、昭和50年2月25日最高裁判決が出された。それは、自衛隊八戸駐屯地車両整備工場で起こった事故をめぐって、国が公務遂行の設置場所、施設・器具などの設置管理、上司の指示のもとにする公務管理にあたって、生命、健康などを危険から保護・配慮する義務(安全配慮義務)を負っているとしたものである。この判例には、通常表面に現れない考え方ではあるが、「法の支配」とは何か!との社会共同体の原則ともいえるべき思索概念が含まれていたのだ。
安全配慮の概念を信義則上に負う義務として認めたものの、不法行為責任損害賠償ではなく、契約不履行責任損害賠償を当てはめることで、消滅時効を10年間として延長し、不法行為の消滅時効3年を排除して、救済することを優先させた判例である。すなわち、時効についての条文を丸暗記した程度では、最高裁のこの判例が理解ができないのである。この判例によって、その後、雇用・労働関係に限らず、医療、学校、請負事業その他多方面に安全配慮義務の考え方が広まった。
労働契約法を制定した主要な立法目的は、労働関係に関する判例を整理して、法律に成文化し法廷法理となし、法律の基準として国内に周知することで、未然に労使間の紛争発生を防止し、不毛な判例解釈を排除することにあった。したがって、ことさら労働契約法の解説・学習に過去の判例を持ち出すも必要なく、法律家にあっては、如何に法的な解釈行うかが役割となってくるのである。個別企業の実務担当者やあっせん代理人にあっては、紛争発生を防止し、発生のときには当事者の納得が得られるような和解を促進し、そのために労働契約法を駆使することになるのである。労使対決を招くための口実たるべき法律構成になっていないのがこの労働契約法である。個別企業の担当者は、一部の法律家と称する者たちに、対決を促され、惑わされ、煽られてはいけないのである。
「労働契約に伴い、」…とは新たに契約を結ぶ段階から契約が終了する間のことを指す。
「労働者」…とはこの法律によれば、使用者に使用されて労働し賃金を支払われる者であり、正社員、契約社員、パートなどの名称や身分を問わず、サラリーマン以外に独立一匹狼(インディペンデント?)などの外注も専属性や時間拘束性があれば、該当することになる。
「生命、身体等の安全」…とは肉体的、精神的いずれもの安全を指し、負傷、疾病、被爆、第三者からの危険を問わず、予見できる状態も含むことを指す。
「必要な配慮をする」…のは使用者であって、労働者から指摘をされた上に配慮を怠れば、安全配慮義務とは別に不法行為責任を問われることにもなる。使用者が安全の指示をしたが、労働者が従わない場合でも、責任が使用者に負わされることになる。
安全配慮義務の条項は、訴訟での対決ばかりを念頭においてしまうと、条文を読んだ通りを超えての発想が浮かばず、今述べた程度の貧困な解釈内容になってしまう。今や事故やうつ病が発生したときに、その損害賠償をめぐって多額の金銭出費を強いられる現代において、会社方針に反して危険作業を繰り返す労働者を抑制する根拠となるのだ。個別企業の実務担当者からすれば、安全配慮を無視しがちな現場労働者とか中間管理職を業務現場から排除する法律根拠となるのだ。「それは安全配慮義務違反となるから、業務停止!」といった具合だ。安全配慮義務違反の指揮命令をしたとして中間管理職を懲戒処分にすることもできる。
そこには、これからの「日本経済を高付加価値製品or高水準サービスの商品提供」でもって、世界各地の富裕層に絞って輸出進出して行くなどの戦略上にあたっては、労働者の安全配慮を軽視するような企業内労働態様は害悪となり、ひとえに人材育成とノウハウ蓄積によらなければ企業の経済展開が成り立たない!といった背景根拠が存在するからである。ひいては、労働者の安全や消費者の安全を重視することになれば、ますます日本が得意とする技術開発・ソフト開発が進展することにもなるのだ。
人命軽視の文化を持つ中国・インド・ロシアにあっては、いくら投資したところで、こういった技術開発や経済発展は国家としての経済政策目標にはなりえないのだ。貧すれば鈍する!では、企業経営は成り立たない。暴力団の世界でも、貧すれば「覚せい剤や売春」に手を出し、鈍して「警察に弾圧」されるのだ。
専門的な話ではあるが、数10年前に労働組合運動あたりから、「就労拒否権」なる概念が持ち出されたが、時代の流れは「新たな権利の確立」よりも、自由平等のための「法の支配」に至ることになったのだ。



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