2012/01/10

第117号

<コンテンツ>
マスコミや経済界、労働界が取り上げないインテリジェンス4つ
 (1)TPPで仕事受注が激変
 (2)国の財政危機
 (3)消費税だけが増税手段
 (4)日本国内資産の国内投資
固有価値論で、経済のサービス化も価格反映が可能
今年は、人材・労働力の棚卸し
固有価値の見積書(例)
【書評】『〈起業〉という幻想』


§マスコミや経済界、労働界が取り上げないインテリジェンス4つ
これだけの混乱と大変動にあっては、学者や経世家の施策(アイデア)も知った上で、経営管理や業績拡大を思考していく必要がある。良い大学を出ても、「話題が報道ステーションやネットの書き込みばかり」とか、「日本エコノミー新聞」の情報といった人物が増えつつあるが、これでは経営や新商品のイノベーションができない。こんな人物は、ひたすら我慢…、ところが突然爆発して支離滅裂になるといった共通パターンをもっている。犯罪に手を染めるパターンとも共通している。

(1)TPPで仕事受注が激変
農産物ばかりが大論議になったが、経営管理とか仕事受注にどのような影響を与えるかを研究しているものも少ない。どちらかといえば、TPPを迎え撃つ意気込みであったり、TPPからの悲愴感からのヤケクソ感情である。
実際に、学問的に想定できることは次の通りである。海外企業が仕事を受注する場合、自国の最低賃金や労働条件さえ守っておれば、労働法上は問題ない。受注した仕事に使う設備や原材料は、発注の要求水準が同一であれば、その仕入れ価格に大差はない。問題は人件費だ。EUやメキシコで生じた自由貿易圏によるトラブルも、主に人件費である。そうなったとき人件費額で国内企業と海外企業での競争となった場合、日本企業は勝てない。例えば、発展途上国の賃金水準で公共事業の入札が行われる場合、その外国の賃金・労働条件の最低基準が認められなければ、発展途上国の企業が差別されたとして、(日本の裁判所に訴えが出るのではなく)発展途上国の裁判所から命令が出て、発注者が罰金を支払わされることになっているのだ。特に官公庁は罰金刑を恐れる。ベトナムは昔から国を挙げて労働輸出をやっている。そればかりか、発展途上国は賃金が安いから、実は日系資本&人材が入った海外法人企業が安値の人件費で入札に参加して来るのだ。
これに対しては、日弁連が提言しているような公契約法などで対処するしかない。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2011/110414_3.html
民間企業間の取引場面で対処するには、高度労働能力の発揮を契約で定めておく方法などでなければ、やはり差別されたとして当該外国の裁判所から罰金命令が出され、日本の発注企業が罰金を払わなければならない。国内の日系企業は、そうなれば、のんびりしていてはTPPで倒産する。要は、外注業者と言われる個別企業には倒産・廃業の危機には違いないのだ。この急激な変化に対する対処は国をあげての経済政策を行う必要がある。美徳だの絆だの我慢だのと云っているよりも、生産の落ち込みとデフレ脱却のため、産業復興法(1933年アメリカの例)でも制定して「値崩れ防止の国民運動」のような施策をしろとの考え方がある。
http://www.c20.jp/1933/06nirak.html

(2)国の財政危機
国家財政安定には増税以外にも方法があるという施策がある。
現在、国が発行する国債のほとんどは銀行が買わされて保有している。実に現在も銀行の経営基盤は弱いから、利息支払いは国が金融機関を安定させることからも重要となっている。そして理屈では国債発行額を減らす必要があると口で唱えるだけで施策がないのだ。
ところが、この国債を個人年金目的の積み立て制度に転用すれば、個人貯蓄が直接国家財政を担保することとなって、潤沢な国民貯蓄が財政を安定させるといった施策だ。第二世界大戦での戦時国債は、価値が「ほぼゼロ円」となったことから、日本の高齢者は買わないが、年金としての国家への貸付である=年金国債=であれば、返済期間と支払いが非集中化することから、安定・安全性が保たれる。金融機関が買わされている国債を少なくすればよい。財務官僚の言うように「急ぐ!急ぐ!」と云って、焦ったりする必要はないとの施策だ。

(3)消費税だけが増税手段
消費税率UPを導入すれば、地元密着型の小売店とか食材加工販売(飲食店)は、今の経済状況からすれば大量に淘汰される。大手のネットワークもしくはチェーン店であれば、値上げかもしくは材料品質を落とす=手をかけた高級品は供給が少なくなる。旬産旬消といった消費は、そもそも大手のネットワークもしくはチェーン店にはなじまない。すなわち、味や見た目は刺激的・きれい的品ではあるが、粗悪化することは間違いない。現行流通ルートの改善で、旬産旬消や地産地消の維持(全面で行うと非効率)を促進する税制を考えた方が現行5%でも消費は増加し税収は上向くとする施策がある。
ところで、EUの経済危機の根底には、安易に消費税率を引き上げ過ぎたことで消費が回らなくなったとするのが定説である。財務省は都合が良いときに、「アメリカでは」とか、「ドイツでは」とか、「フランスでは」とかの様々な事例をあげる(これを学者の間では、「ではの神」という)。ところが、今回の消費税論議には、「ではの神」が出てこない。そして、ヨーロッパでは、ぜいたく品の消費税は高いが、基礎的食料品ではほとんど消費税が減免されていることを、マスコミも見過ごしている。そこで、消費税をアップした時点の不況対策、それ以前の景気刺激や準備対策こそが必要だとする施策がある。
http://www.777money.com/torivia/syouhizei_world.htm
累進課税論争は学問的には決着したが、官僚たちから導入の話は出てこない。年収5000万円以上の収入内訳は、90%以上が「報酬」や給与ではないとの統計資料が出ている。このことから、学問的に累進課税は、「勤労意欲を低下させる」といった論拠は消滅している。世界で初めて累進課税を導入した国はアメリカである。日本もそうだが、初めて導入した時代と、個々人の収入構成は大きく異なっているのだ。産業空洞化の防止策は累進課税だとする施策もあり、東北の地震・津波・原発の復興税に累進課税を含める施策もある。

(4)日本国内資産の国内投資
日本経済に投資する資金はない!と言われる。これも良く考えると、従来方式の資本投下による産業育成、すなわち古典的経済学でいえば、「利子生み資本」を投下する意味が、日本国内にはないということである。新自由主義的経済学となれば、「(俗称)利回り資本」の投資対象が日本国内にはないということである。
ところが、経済成長と別枠で考える経済的豊かさを回復するための資金がないわけではない。俗にいう「大企業群の内部留保=260兆余」である。そのすべてが使えるわけではないが、それを経済的豊かさ(個人消費や生活満足度などの向上)に投資することへの期待は強い。財務省も実はこれを狙っている。
いわゆる商品は大まかには生産財と消費財である。このうち消費財を扱う企業は大手・中小問わず、経済的豊かさへの投資を増加させ個人消費の引き上げ、業績向上を狙っている。その経済論理である大企業群の流動性資金過剰状態、賃金水準低下による国内需要低迷、個人家計消費の低迷などへの指摘に対して、そうではないと反対の論述をする学者は皆無である。
筋の通った学説としては次のようなものが存在する。労働・雇用基準を改善し労働市場の健全化による労働分配率向上。社会保障施策を大幅充実し教育・福祉・医療の雇用拡大。一次産業と零細企業を念頭に地域経済循環政策。大企業への課税・社会保険料の賦課強化といった施策である。(但し、こういった学説では、従事者10人未満の企業は、時間制or出来高制を問わず事業主も含め全員を労働者と位置付けているから、誤解のないように)。
第二次大戦直後、日本では税収を上げるために、戦災で焼け残った家屋に対して固定資産税を(焼け残って幸運な人に)追加で掛けたことがある。イギリスでは、民間保有資産に対して最高で30%の課税をしたこともある。いよいよとなれば、戦後そういった課税をしてでも、それを国が投資に回して経済成長を図ってきた。これが戦災で打撃を受けた経験のある先進国でもある。今それをしないのは、当時に比べGDPと資産規模がけた違いに大きいからだ。(年間国家予算程度はすぐ確保だ=といった官僚の脅しも?)


§固有価値論で、経済のサービス化も価格反映が可能
目的と自覚を持って固有価値の付加に高度労働力を投入すればよい。
現在の不況の原因は、昔のような過剰設備による反動から来たものではない。消費の拡大が出来ていないことから何時までも景気低迷を起こしている。だから、経営管理のイノベーション&商品技術のイノベーションを進め、時代を切り開く「高付加価値製品や高水準サービス」を、商品の固有価値として科学的に付加することで、適切な安定した価格決定が行われ、これが業績拡張と利益増を図ることとなる(固有価値の見積書↓)。
コスト切り下げと海外移転ではジリ貧を招き、あげく身売りも避けられない。固有価値を付加した「生活文化型商品」は、数人の町工場でも業績向上の事例は数限りなくある。今は大量生産されてはいないものの、実にそういった商品こそがグローバル多国展開されている。
ちなみに、日本円で1億円以上の預金等を持つ富裕層は世界に1億人余といわれる。預金等は投資可能資産だけでは推し量れないから、各国の表向き預金統計数値等では富裕層人数を把握できない。その内、日本国内は150万人余(一部のマスコミの言う富裕層は投資可能資産の保有者で計算)。中国国内は約4000千万人といわれ、中国進出しなくとも連銀カードで日本へ買物に来る。そこでは、日本企業の商品づくりに存在する潜在的「固有価値」が、ブランドその他の型として発揮されているから、富裕層が日本から買うのだ。
ところで、サービス産業の特質について、松下電器産業叩き上げの安積敏政教授(甲南大学)が、九州産業大学の鄭森豪准教授の研究成果を紹介している。それは、サービス産業には7つの特質があるとして
(1)(サービス)商品価値の多因子性
(2)総合価値の概念的曖昧性
(3)価格とコスト間の相互関連の不明確性
(4)需要者側における購入対象サービスの事前評価の不可能性
(5)ストックの不可能性
(6)流通の短絡性(一段階性)
(7)多系統サービスのシステム化の必然性
としている。
この研究の非常に評価出来ることは、松下電産のアジア展開で叩き上げて来た安積教授の推薦する分析だから、現象面では信憑性が強いといえる。が、決め手はその本質である。
だが加えて、論理的合理的に、というのはこの論理性合理性がなければ他人に伝達できないのだが、要は分析できないと論述しているのである。だとすれば、サービス産業は経済性や社会性に基づいて価格決定が行われていないとの理論展開に利用される分析かもしれないのだ。これを否定したところで、軍事力や世間体あるいは経済外的強制によってサービス産業の価格が左右することとなる論理となる。だとすると、古代略奪経済活動とか封建的支配経済活動のように、正当なサービス産業を衰退させようとする人たちに便利な学説にもなりかねない、…中国の経済論理(贋作やコピー商品もその身近な論理)のようだ。
サービスと言われるもの業態について、今日までさまざまな学説が唱えられできた。場合によっては学説に縛られて経済活動や経営裁量を自ら規制している状況もうかがえる。しかしながらそれは、サービスと言われるものが未発達な時代を反映し、かつ本質を避けた学説であったからにすぎない。古い学説ならば、商品には使用価値(限界効用)と交換価値の2つの側面の価値があるとされるのだが、この使用価値(限界効用)に加えて固有価値が存在し、この2つの価値合計が交換価値として取引されると分析した場合、サービスと言われるものの業態にも価格論理性が生まれてくるのだ。


§今年は、人材・労働力の棚卸し
それぞれの個別企業では、今年はこれが求められる。現下の経済状況というのは旧式の統計調査方法では分からない。その統計の成り立ち&統計学の知識を備えていてこそ、やっと統計の正確に意味するところが分かるところまで来ている。今の経済危機の原因の本質を消費低迷だと分かっておれば、設備投資や鉱工業生産の統計などは景気回復後に見ればよいことなのだ。だが消費傾向や推移統計等のそれも、正確に意味するところが判明したところで(現実には次世代経済構造に役立つ統計は無い)、何を行動するかが経営には重要なのである。ひとつの方向に向かって経営哲学と経営戦略に、あらゆることをまとめあげていくことが、事業を経営するということである。「数値は踏まえるが数値には左右されない」と、これを歴史の事実や経営学は解明している。
それからすると、TPPとか消費税などの動向を見つめながら、個別企業では人材・労働力の棚卸しをすることが重要なのだ。その棚卸しが出来ないとか行わない場合は、一挙に不採算を生み出す。これは昨年の夏あたりから如実に現れた傾向である。これを先送りした企業ははっきりと決算に影響している。
すなわち、これからの主流となる
1.経営管理手法(新しい管理職の評価方法=メルマガ12月号)
2.業績拡大手法(新しい経営哲学にもとづく教育方法=メルマガ12月号)
3.そして、これにもとづく人材・労働力の棚卸しなのである。
単に使用価値を製造・販売する業務では、マニュアルで作業方法を確立し、より賃金の低い、その作業に適した労働者に切り替える必要がある。これこそ職業分類統計にも、その実態が事務作業者と労務作業者の増加として現われている。
だが問題はその次である。使用価値を単純労働で遂行するほどに、価格低下を起こし採算を脅かされるのだ。それをジレンマととらえて経営管理を行えば個別企業の存在価値はなくなる。だからこれが、日本の大手製造業の製品が価格競争にさらされ、あげく海外企業に市場をとられてしまった結末なのである。海外に進出して激烈な環境の中であくせく働くか、足を国内に着けた高い利益率の経営をするかは、作戦参謀である貴方が選ばなければならない。高い利益率は固有価値を付加することであるが、その理論体系の研究報告はこちらのWEBでどうぞ。(管理職の評価方法、教育方法、固有価値の見積書例などの解説は、このWEBの下のコンテンツ)。
http://www.soumubu.jp/new.html
筆者の経験からすれば、売り上げ不振や経営危機に陥ってからでは、こういった本来の棚卸しを行うことは不可能である。今や裁判所の動向も整理解雇について将来的な経営計画にもとづく必要性を認める方向にあり、そこでは上記のような手法と棚卸しは認められているのである。
今年の事態は緊迫する。手遅れになれば企業を破産させ、並行して有能な人材を確保した新会社の設立しか方法がなくなる。だが、そこでは経営者と古参社員に血が流れる犠牲を払わせることになる。


§固有価値の見積書(例)
生活文化型商品であればこそ、使用価値に固有価値を付加するには明確さが必要だ。ぼんやりとした付加価値論とか部下に説明教育できないようでは、この経済の緊迫事態の売り上げ向上に間に合わない。そこで、その見積書の作成例を作ってみた。
http://www.soumubu.jp/download/template/template2/sonota/koyuukachi.html
各々の文章で書かれた項目は、業種により簡潔な語句に変換すれば短くなる。通常の人間関係と双方の倫理的取引関係ならば、センテンス文章表現でも単語語句表現でも意味が通じるようだ。それは、自らが仕事で生み出す付加価値を、誰しもが正当に認めてほしいからであろう。
1.商品の使用価値部分は、従来通りの原価積み上げ方式の内訳を記載。
2.使用価値に付加される部分を固有価値とし、その内訳を明記している。
3.加工作業、事務作業、服務(サービス)作業で固有価値が増殖することを明記。
4.付加される固有価値を「お客の暮らしぶり&欲しくてたまらない品」として追加。
5.付加価値の中で決定的役割を果たす固有価値は、お客の将来希望の提起。
6.すなわち、お客の購買意欲、お客毎の受容感動、お客の将来希望ごとに記載。
7.元に戻って、最低必要限度&生命維持限度が使用価値分であることを明記。
8.お客毎の受容する感動は、原則1回性の固有価値である。
9.よって固有価値を付加により、購入時、使用時、保存期間を通じ価値が増殖。
10.暮らしぶりは地域文化に根ざすから、その文化圏外には持出す経費を要す。
11.顧客との関係は、固有価値を長期に安定提供し続けることになる。
……こういった考え方で、貴方の企業の商品見積を検討してみても、業務改善の要領が解明されて来る。
もちろん、公認会計士、税理士、大学院卒の中にはいまだに、商品には使用価値だけが交換価値(現在では通貨)に転換することになると力説する人物もいる。これでは、経済学部・経営学部で教条的に「使用価値論・交換価値」学説を習っただけだから、付加価値のある商品で成功している事業の存在を知らないのか、あるいは学問的分析ができない人物にすぎない。
また、この固有価値見積方式を営業部門に見せたところで、不採算を承知で営業販売している人物とか経営哲学の備えの無い人物では、全く理解できないことは当然だ。有能な人物は鋭いから直ぐ理解してくれる。しかし、全社的に固有価値がどのように付加されているかを見積書に表現できなければ、どの国に行っても、どんな仕事をしても、固有価値が無いとして商品も企業も、買いたたかれることは自然なのである。
またそれは、先ほど紹介した、新しい時代の教育とリンクしている。
1.接客方法(親切行為を現すには、客からの世間話に応じる方法その他)
2.商品知識の活用(客の生活意欲・受容感動・将来希望の三つを同時に叶える)
3.提供する価値(効用価値や使用価値に、どんな固有価値をプラスしたか)
4.直接間接のリピート(再来してくれる客だけでなく、廻り回って経済循環するか)
要するに、一般的に「会社の利益は2割の顧客から8割の売り上げ、不採算客に利益が分配される」と言われるが、それを具体的に解決することにも通じるわけだ。第一線の専門家は、顧客満足度の引き上げに成功したとしても、リピート率は50%だと断言する。クレームが出たときこそ100%のリピート率のチャンスと力説している。(谷厚志著『「怒るお客様」こそ、神様です!』徳間書店 2011/10/31)これこそが「固有価値の提供」そのものの論理なのである。
無秩序社会の到来と懸念もされるが、それは商道徳が破壊された空間が社会の中にマダラ模様のように発生し、増殖増加するという概念である。決して社会全体が同率、均等の%に灰色化するとの商道徳の破壊ではない。但し、商道徳の破壊は、古い産業、古い会社、古い人物から起こる可能性の高いことは否めない。資産があるから倒産は免れてはいるが、Talentも含め滞留する資産は社会の損失でもあるのだ。マダラに存在する無秩序商道徳破壊領域は、とにかく回避するしかない。
生活文化型商品の固有価値にまつわる概念を表にすれば次の通りとなる。
  (人間行為の区別)  物作り  商い  自律する行為
  (商品価値入手前)  意欲   感動  希望(リピート)
  (商品価値の実現)  期待   満足  要望(クレーム)


§【書評】『〈起業〉という幻想』
(副題:アメリカン・ドリームの現実) 著者はスコット・A・シェーン。
アメリカにおける起業家に対する幻想を各種統計のもとに暴いたものである。本の後に結論めいた要点を6ページにわたってまとめている。内容を読み進むうちに、これはまるで日本の現実ではないかと思わせるものである。いくつかの要点をあげると、
ほとんどの起業家が失敗する割合が高い産業を選択している、
たいていの起業家はビジネスアイデアを計画的に探求していない、
ビジネスアイデアがはっきりする前に会社を立ち上げている、
長続きする起業家は社会的ネットワークは補助的、コネより知識である、
チームによる起業は非常に珍しく成功例が少ない、
多くの起業家が儲からないにも関わらず成功のチャンスを過剰に楽観視、
大半はやっていることが間違い、新たなビジネスの経営手法を間違えている、
そして経済政策としては、ほとんどの起業家が新企業を創業するよりも平均的な既存企業の方が事業拡大・技術革新で雇用を生み出すと主張している。よって、「新たな自営業はやめさせた方が、政府の経済効果が大きい」と結論づけている。
本文の最後に、「無知な起業家には、ぶざまな決定しかできないということを知る必要がある」とし、起業家を判定する選抜基準のようなものを、例として記している(p226)。
1.より資本金が豊富で、
2.株式会社として組織され、
3.明確なビジネスプランを持つ起業家たちが、
4.チームがフルタイム・ベースで創業し、
5.他人が見逃している顧客に製品を売ろうとしている、
6.比較的大きなビジネス ……としている。
さらに起業家には、
A.マーケティングと資金のやりくりを重視し
B.一つの市場に集中し
C.価格引下競争に走らないことが業績向上と解っている
さらに加えて、高い業績をあげる起業家は、
D.教育を受けていて、
E.始めるビジネスの産業で働いた経験を持ち、
F.利益をあげることを目標に創業した企業
……として著者なりに統計分析した実態を描き出している。
自ら起業を考える人や、貴方の関係者で起業しようとする人がいる場合は、必読の書であるといえる。